ココロ

 

 

“願います。彼女の夢を叶えるために。”

 

 

 「「「“【大切なあなたのために】”」」」

 

 

突風が吹いた。

偽物のろうそくが消える。

反射的にミカが目を開けると、ミカとイェフヤーを取り巻くように風が旋回しやがて橋が出来上がっていく。

ミカが触れると、それは小さなリボンへと変わった。イェフヤーの顔を見ると変わらずにこにこしていた。

 

---“願えば、結果はわかりますね。アニエルの元で見た景色を忘れないでください。そして、あなたが一人じゃないということも。”

 

行きなさい。

私は私の主とともに待っています。

そう高笑いを残してイェフヤーは風の中へ消えていった。

 

 

ミカは意を決して踏み出す。

ミント、グリーン、モスグリーン、

ゴールドにアイボリー、ホワイト。

小さなリボンが絶え間なく連なっていく。

 

翼をなくし素足で踏みしめることでリボンが生まれる様子が直に伝わってくる。歩みを進めるごとに聴こえ、増えていく祝福の声。足底に感じる人肌の体温。

“この温度、感触、手のひらだ…!”

人間の手のひら、もといリボンの橋を渡る間、ミカは魔法みたい、と思った。

 

あのとき怪盗キッドに“人間に魔法なんて使えるはずがない”と言ったのは本心だった。人間を助けるのが天使だと思っていた。

でもちがったみたい。

平和な日常も、困ったとき、つらいときも、手を差し伸べてお互いを助け合えばそれでいいんだ。

 

“良いときもそうじゃないときも、逆境を上回るのは二人を想う人間のココロ。”

 

この沢山の祝福の声を。

彼女と彼女の大切な人の幸せな日へ。

 

“届けるんだ。それが私の任務。”

ミカが一粒だけ流した涙はダイヤモンドとなり、リボンの橋はいっそうキラキラと輝いた。

 

 

やがてミカの体温が上がり、あたり一面、白い光に覆われていく。

あまりの眩しさにまぶたが閉じていく中で大天使アニエルがダイヤモンドを受け取る姿が見えた気がした。そしてアニエルのまわりでは赤、橙、黄色の華燭が風にも負けずに温かく灯り続けている。

その、あまりの美しさに目を閉じた。