Ribbon

 

__“祝宴の準備は進んでいるか”

 

大天使アニエルに問われても、以前のミカとは別人かのように自信が持てているのであった。

 

__“ついておいで”

 

ミカの信念を見抜いたアニエルは、見せたいものがあると言う。

 

ミカには今でもその光景が眩しいくらいに残っていて、思い返すたび体の芯が熱くなるのだ。

 

 

扉を開き、奥へと進むと日光の差し込む部屋が現れる。アニエルが手に取ったのは二本のリボンである。リボンを辿ると彼女の左薬指へと繋がっており、そのタレを丁寧に織りながらアニエルは慈しむように見つめる。

リボンの糸の一つひとつが人間の名や、声や、記憶、彼女が憶えているものから憶えていないものまで。それらはアニエルの手元で金色と銀色の艶を纏い、こと細やかに織りなされていく。美しく強かなリボンが永くまだ見えぬほどに続いていく。

金色は彼女が出逢ってきた人々と、結びついた時や縁。銀色は彼女が最も大切とする人の出逢ってきた人々と、結びついた時や縁。良かったものやそうでないもの。全てを上回るのは二人を想う人間のココロ。

 

アニエルは今一度、二本のリボンをかたく結ぶ。そうするとキラッと光るのであった。

 

ミカは形にされたそれを初めてみた。

アニエルが微笑む姿も初めてみた。

こんなに美しいものが存在するのなら、人間にも見せてあげたいと彼女を想うのだった。

 

この感動をどうにか“実体”にできないか、ミカは案内人のもとへ急いだ。

 

 

はずが。

 

 

ミカは拐われてしまった。

祝宴が目前に迫った2021年9月某日。

純白は純白でも、“白い怪盗”に。