Dazzling road
“で、あなたは何をしてらっしゃるのですか”
[おっと、さすがだねえ天使ちゃん]
“私はてっきり昨日現れるものと思ってましたが”
[俺だって流石に気は遣えるさ。上手くいったみたいでよかったじゃないか。]
“全く、誰のせいだとお思いですか”
ミカは窓の外を気にかけながら、怪盗キッドに向けて軽くため息をつく。
夜の空気はひんやりと冷え、暑かった昨日がうそみたいだ。
今夜の月齢は10歳か。彼女の誕生日には満月になりそうだ。
“私を捕らえた日、あなたはどちらへ行かれてたんです?”
ミカには怪盗キッドがわざと席を外したようにしか思えなかったのだ。まさか私が逃げられるか試したとか…?
[そりゃあ言えねえな。怪盗にも色々都合ってもんがあるんでね。]
“はぁ、そうですか”
含み笑いを浮かべる怪盗キッドにミカが“とことんいけすかないやつめ”と思ったのは内緒である。
[天使ちゃんこそ、よく閉じ込められた中から脱出できたじゃないか。一体どうやったんだい?]
彼女の周りの人間が協力して作ったリボンが、捕らわれた私を彼女の元まで導いたなんて言ったら怪盗キッドは茶化すだろうか。
“彼女の繋いだ縁こそが宝物なのに、気付かないなんて灯台下暗しですね、怪盗キッドさん。”とミカは心の中でつぶやいた。
“それは言えませんね。天使にも色々ありますので。”
今度は怪盗キッドがムッとした表情を浮かべる番だった。
[にしても、華燭も偽物だったみてえだし、天使のダイヤモンドも見つからないし、得られた宝物はこのシューズくらいかぁ。]
“華燭は今も彼女の彼女の大事な人の元で灯り続けていますよ、ふたりの誓いのサインと共に。”
[そんなところに本物があったとはね…。そうだ、まさか天使ちゃん自体が【セラフィム】と呼ばれていたシューズそのものとは思いもよらなかったよ。ま、幸い置いていってくれた左足は俺のコレクションに追加されてるけど♡]
“あなたが盗んだから左足の代わりに、脱出したときに燃えた私の片羽根、炎に染められた蒼い羽根が小瓶に収まっていたのですね”
[片方の羽根だけじゃ、天使ちゃん飛べないんだろう?]
---“怪盗キッドさん、良いことを教えて差し上げます。”
“イェフヤー!”
予告状を手にして登場したのは9月6日の守護天使イェフヤーだった。
---“この予告状にあなたが記しているではありませんか。【比翼の鳥】は中国に言い伝わる、翼が片方しかない、常に二羽一体となっている鳥のことですよね。だから、ミカ!”
“私とイェフヤー、一緒ならどこまでも飛べます。遠い未来までもね。”
[そうかい、まさしく、結ばれたふたりのしあわせが永く続くほど、飛べるってわけだ。]
---“でも、左足のシューズも返してくださいね。あれは彼女のものです。”
[どうしようかなぁ。まぁ、彼女がほしいって言ったら返してあげないこともないかな。]
“やっぱりいけすかない。”とミカは思い、
---“なんだこの人間。”とイェフヤーは思った。
[というわけで、彼女にはよろしく頼むよ。次回会うときは、月下の光のもとで。]
怪盗キッドはそう言うと白いマントを翻し、宵へと消えていった。
“また消えた…。いろんな目に遭わされたけれど、怪盗キッドは【天使のダイヤモンド】を探していたのか。”
---“天使のダイヤモンドって一体なんでしょうね。”
___“ミカ、イェフヤー、無事の祝宴ご苦労さま。”
9月28日、ふたりの真ん中バースデーこと大天使アニエルだ。
___“彼女と彼女の大切な人の笑顔が見れて私は嬉しい限りよ。よくやり遂げたわね。”
アニエルは、ミカとイェフヤーに手のひらを見せた。そこには指輪があった。
___“ミカ、あなたにみせた金色と銀色のリボンのことはおぼえているかしら。イェフヤー、あなたはリボンの橋のことも。”
おぼえています。ミカとイェフヤーは声を揃える。
___“おぼえていてくれてよかったわ。そしてきっと今のミカとイェフヤーは人間のココロについてもよくわかっているわね。”
指輪をよく見てちょうだい。とアニエルは諭す。
___“ミカがあの日、リボンの橋を、人間のココロが繋いだ橋を渡りながら流した涙がこのダイヤモンドよ。”
これは人を想って天使が涙を流すときだけにしか現れない現象なの、とアニエルが続ける。
___“ミカ、あなたは怪盗キッドに本当に大事なもの、彼女の想いを盗ませなかった。彼女をきちんと守ったのよ。自信を持ちなさい。”
指輪は、ダイヤモンドを包むようにリボンが結ばれているデザインだった。
ミカは思い浮かべる。
大天使アニエル、守護天使イェフヤー、3人の案内人、リボンの橋を架けた人間たち。
私はひとりじゃない。
“もちろんです。彼女の守護天使ですから。”
---“ミカの笑顔初めてみた気がする、!”
___“可愛いんだからもっと笑ったらいいのに”
“あー!もうはいはい!彼女がお望みのようなので私は怪盗キッドから左足のシューズを取り返して来ます!”
ミカはその足で一歩を歩み出した。
堪えようとしても堪えられないくらい、溢れるミカの笑顔。
足跡は光をまとい道となる。
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