悪い夢
ミカは小瓶のようなものの中に閉じ込められていたが、この小瓶自体に力はないようだった。
“私を閉じ込めて、一体なにをご所望でしょうか。”
[いやいや、特別な事情はないさ。ただ君は、天使ミカエルだろう?数多のお宝を狙ってきた俺からしても中々お目にかかれるようなお方じゃないもんでね。]
怪盗キッドがろうそくをテーブルに置いた。それはゆらりと炎を揺らし、蒼く変色したのである。
“それですね、真っ当じゃないものは。”
[真っ当じゃないなんて、ひどい言い様だなぁ。こいつも俺が頂戴したお宝の一つさ。]
すごいだろ?と得意気な怪盗キッドにミカは言葉を返さない。
[聞かないのかい、これが何か。]
“こちらから聞かなくても語りたいのかと思いまして。”
[つれないねぇ。まぁ語らせてもらうさ。]
怪盗キッドによるとそのろうそくは特定の自由を奪う邪術を持つ、としてごく一部の宗教家に重宝されてきたという。言い伝えが形を変え、今となってはその信憑性よりも悪魔性が好まれてコレクターたちの間で価値を生んでいるらしい。
[まぁ簡単に天使ちゃんの自由を奪っちゃって?本当に効果があるなんて俺も驚いているところさ。]
“大変趣味がお悪いのですね、あなた。”
[はっはっは、そりゃどうも。褒め言葉にしか聞こえないねぇ。]
ミカは意図を探る。
自分のことが見え、話ができ、そして拐うに至った怪盗キッドは何者だろうと。
怪盗キッドが視線を逸らした隙に小瓶からどうにか出られないものかとミカは触れてみる。すると、またろうそくの炎は蒼く揺らめいた。
そして逃すものか、というように小瓶の表面は冷え切るのであった。触れていたミカの手が凍ってしまうかのごとく。
[あんまり無茶はしない方がいいぜ。大人しくしていれば美しいままいられるんだから]
まぁ、諦めておくれよ。
飄々と言う怪盗キッドが好ましくなく、ミカは静かに睨むのであった。