3枚の羽根

 

 

 

それに気付いたのは、案内人の人間だった。

 

何者かに拐われたミカは人間とコミュニケーションを取ることができなくなってしまったのである。

“観ることはできる分、よかったですよ”とひとりごとを呟く。ミカは天使なので。

 

ミカが人間の力を借りる間、羽根をそれぞれ1枚ずつ持たせたのだった。

それが今はどうやら彼女の元にある。

案内人の人間には一時的に可視化しているが、他言はできないようになっているはずだった。

 

「羽根が、ない」

「そっちも?」

「なにこれどうしたらいいんだろう」

「ミカー!」

 

“はい。”

 

「ミカー!」

 

“聞こえてますよ、でも聞こえませんよね…”

 

これはどうしたものでしょう。

狭い空間に閉じ込められている。

どうして天使である私を閉じ込めることができているのか。ミカは考えて、考えて、ふと気付く。

 

ここに来るまでの記憶が途絶えていることと、眠りから覚めたらここにいたということに。

 

[お目覚めかい、天使ちゃん]

“どちら様ですか!?私の存在がわかるなんてあなた何者なんですか!?”

[純白は純白でも、真っ白な怪盗キッドだよ。]

 

[空いた口が塞がらない、みたいな顔するのやめてもらえるかな?]

“いえ、失礼しました。ちょっとまだ状況が飲み込めていないもので…。”

 

怪盗キッド?と鼻についたのは内緒である。ミカは今、相手が怪盗キッドであろうと構っている暇はないのだ。

 

“それで、これはどうなっているのでしょうか”

[天使ちゃんを傷つけるつもりは全くないから安心しなよ。少し、封印させてもらっているだけさ。]

 

ミカが手を伸ばせば一定のところで透明な壁にぶつかる。自分の声の反響から察するに小瓶のような入れ物の中に閉じ込められているようだ。

普段なら物質を通り抜け自由に移動できるはずのミカが閉じ込められている。

 

怪盗キッドとは一体何者なのだろう。

ミカは表面上は平静を装いつつ、想定外の事態に大混乱していた。